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【104】「老いを受け入れるな」

歳を重ねると、誰もが自分の身体の異変を感じるときがきますね。

腰が痛くなったとか、身体の節々の関節に痛みを覚える、とか。そうやって誰もが歳を受け入れていきますね。

そして、もう少し若ければもっと動けたのに、と嘆きます。さらに日々の仕事は病院通いとなり、院内では患者同士の病気自慢に花が咲きます。

このように誰もが歳を取ることに対して言い訳して生きる人生へと大変化を遂げていきます。しかし、歳を取ることに不平や不満、文句や愚痴などを言い続けたとしてもそれは自分に対する言い訳だけで、結果、何も残るものではありません。

私は、この状況をあべこべに考える事にしました。

その理由は、身体の衰えに対して現実や事実は何も変わらないからです。

私たちは、ある程度、高齢者と呼ばれるようになったら、その時点で年齢を止めて見る事も必要かもしれません。つまり、人間が考えた年齢などどうでもいい、そんなことよりも年齢は自分が決定すればいいのですからね。

身体の節々が痛くなったら、笑えばいい。

疲れやすくなったら、早く布団に入って微笑んであげればいい。

物忘れが激しくなったら、もう想い出すことを止めればいい。

思うように動けなくなったら、速度を落としてゆっくりと動けばいい。

そして、歳を重ねることは素晴らしいことだと感謝すればいい。

身体の衰えに対して、今まで優しくできなかった分、優しくしてあげればいい。

急いで生きても、ゆっくり生きても、与えられている人生の時間は同じだから。

身体が元気であっても、いずれ動かなくなるのだから。

 そんなことを考えている矢先、弟の紹介でレンタル店にDVD映画を借りて見ました。その映画のタイトルは『運び屋』でした。

俳優、映画監督として六〇年以上のキャリアをもつイーストウッドは現在八九歳。最新作『運び屋』の主人公や家族との関係には、イーストウッド自身の人生の実体験も投影され、自伝的な要素を多分に含んでいるというものです。

 家族のために、仲間のために運び屋を続けた主人公アール・ストーンがどんな結末を迎えるのか。

軍隊を終えたアールは、毎日花づくりの仕事に精を出し、その花を売って暮らしていました。おそらく私の想像ではあまりにも辛く苦しかった戦争が彼の心を深く傷つけ、美しい花を育て続ける事で自分自身の精神を保っていたのではないのかと勝手に想像してしまいます。

その反面、妻や子どもたち、孫たちにからも離れ(逃げ)、花づくりに一心をかけていましたが、最終的には大借金を抱えてすべてのものを失ってしまいます。

 そして、九〇歳となった彼は、運び屋に転身しました。

その仕事は大量の麻薬を運ぶ危険な仕事ですが、彼はそれを運ぶたびに大金を手にするようになりました。彼はなぜそのような仕事に手を染めたのか?現実には、九〇歳でできる仕事なんてありません。どこも彼を雇ってくれるわけではないからです。そして、彼は失った時間をその仕事で取り戻そうと働き続けました。

そしてその稼いだお金のほとんどを家族のために送り続けるのです。

 現実は家族からも見捨てられ、事業を失敗し、住んでいた家は差し押さえられ、生きるすべを失っていました。彼は犯罪をする仲間たちからは年寄り扱いされて馬鹿にされていましたが、やがて彼らは彼を尊敬のまなざしと変わります。その理由は、彼には恐れるものがないからです。もちろん、戦争体験なども彼の唯一の誇りだったのかもしれません。

しかし、彼は初めて約束を破りました。

それは死が目前となった彼の最愛の妻のためにその仕事から離れた事でした。

わずかな妻との別れの時間、それはまるで若かったお互いのあの頃に戻ったかのように語り合うのです。彼は考え込みながら生き絶え絶えの妻の手をにぎり続けました。どうしてこんな人生だったのだろうか、と想い出したかのように、ほんの、わずかな時間が過ぎて行きます。

そして、葬儀を終えて彼は仕事に戻ります。

それは殺されることを覚悟して…。

九〇歳で年老いた老練なイーストウッドはそのままの姿で、ありのままの演技で、決して美しくも、恰好よくもなく、そのままの老人を演じました。

ラストシーンで次のような歌がありました。

◎「Don’t let the old man in」歌詞和訳  Written and performed by Toby Keith Courtesy of Show Dog Nashville

老いを迎え入れるな

もう少し生きたいから

老いに身をゆだねるな

ドアをノックされても ずっと分かっていた いつか終わりが来ると 立ち上がって外に出よう

老いを迎え入れるな

数え切れぬ歳月を生きて 疲れきって衰えたこの体 年齢などどうでもいい 生まれた日を知らないのなら 妻に愛をささげよう 友人たちのそばにいよう 日暮れにはワインを乾杯しよう

老いを迎え入れるな

数え切れぬ歳月を生きて 疲れきって衰えたこの体 年齢などどうでもいい 生まれた日を知らないのなら 老いが馬でやって来て 冷たい風を感じたなら 窓から見て微笑みかけよう

老いを迎え入れるな

窓から見て微笑みかけよう まだ老いを迎え入れるな

「九〇歳の運び屋」より

彼は、最後に妻にこう語りました。

「すべてはお金で何もかも手に入ったが、時間だけは買えなかった…」と。

※映画『運び屋』 映画界の“生ける伝説”クリント・イーストウッドが、「グラン・トリノ」以来10年ぶりに監督・主演作を携えて帰ってきた。熟成された監督力、渋みを増した演技力、画面にくぎ付けにする物語力……すべてが進化した最新作「運び屋」(2019年3月8日公開)に、あらゆる映画ファンは奮い立たずにはいられないだろう。麻薬カルテルから一目置かれ、警察を煙に巻いたすご腕の運び屋の正体は、犯罪歴のない90歳の老人だった! 前代未聞の“実話”と、かつてない巨匠の“挑戦”に、刮目(かつもく)せよ――!

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