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【59】YESストーリー「笑う子」

毎朝の道で、いつも通りすがる少年が「おはよ!」と笑顔いっぱいで挨拶します。

毎朝、同じ時間、同じ場所でのこと。

最初、私は戸惑いました。

見知らぬ少年からの挨拶なので、どう対処してよいのか、どのような態度を取ればよいのか、正直面喰っていましたが、相も変わらずその子は笑顔で「おはよ!」と声をかけてくれます。

私も気合を入れて、今度こそ笑顔で挨拶を返そうと思いましたが、私の顔は笑顔どころかひきっつていたような気がします。

知らない人に笑顔で接するのはむずかしいことです。

それに、その少年は孫の世代の少年です。

また、年上の私に「おはようございます」ならわかりますが、そうではなく「おはよ!」です。最初は何か馬鹿にされているような気がしましたが、慣れてくると、その笑顔が愛らしくて、嬉しく感じるようになってきていたのです。

何とかその子に自然な笑顔を見せたくて、私は、鏡に向かって笑顔の練習をしてみましたが、自分のつまらない顔を見ると余計に笑顔など出てこないのでした。

笑顔ってむずかしいものですね。(普段から笑顔が足りない証拠です)

せっかく笑顔で挨拶してくれるのですから、次こそ笑顔でお返しをしようと頑張ってみますが、少年はそんな私におかまいなしで、変わらぬ笑顔で「おはよ!」といいます。

いつも笑顔で、通りすがりの人たちに挨拶する不思議なその子に、ある日、私から声をかけてみました。

「キミのお名前は?」

「イサクというんだ」

「なんだかすごい名前だね」

「うん・・」

私が上手に笑顔を出せるようになった頃、イサクちゃんが涙を流していました。

いつもの「おはよ!」の言葉も沈んでいるように思えました。

「イサクちゃん、何か哀しい事でもあったのかい?」

「・・・」

「さあ、元気出して、笑って」

「・・・」

「さあ、涙も拭いて」

「いいんだよ、おじさん。ボクうれしいんだ。とてもとても嬉しいんだ」

「えっ、何か良いことでもあったのかい?」

「・・・」

「おじさんに教えて」

「うん、ボクほめられた・・」

「何をほめられたの?きっと良い事をしたんだね?」

「うん、ぼくお母さんにそっくりなんだって…」

話を聞いてみたら、イサクちゃんのお母さんは、今年亡くなってしまっていたのです。

お母さんの最期の言葉は、

「ママはイサクちゃんの笑顔が大好き。だからママがいなくなっても、大きくなっても、ずうっとずうっと、その笑顔のままでいてね。約束してね…。あなたの笑顔はとても素敵よ。ママはずうっとあなたのそばにいるからね…」

笑顔は大好きだったお母さんとの約束だったのです。

泣いていたのは、お母さんのステキな笑顔とそっくりだと言われたからでした。

それが嬉しくて、家の鏡をのぞいてみたら、そこにお母さんがいたというのです。

そう、お母さんはいつもそばにいて、こうして笑顔でいてくれたのでした。

その鏡は、イサクちゃんが悲しめば哀しそうな顔をします。

怒っていれば、同じように怒ります。

イサクちゃんはお母さんの笑顔を見たくて鏡を見るようになり、その鏡の中のお母さんに話しかけるようになりました。

それからは毎日が楽しくて、嬉しくて、笑顔でいっぱいになりました。

それがイサクちゃんの笑顔の秘密でした。

しばらくして、イサクちゃんと会えなくなってしまったので、道行く子どもたちにイサクちゃんのことを訊ねてみました。

すると、「もう、いない」といいます・・。

どうやら、他の学校に転校してしまったようです。

私はなぜか泣けてきました…。

やっと笑顔らしくなったので、イサクちゃんに笑顔を返したかったのに…。

小さな少年が笑顔で挨拶する。

見知らぬ人に「おはよ!」という。

とても小さな行いですが、その通りを明るくしていたような気がします。

たかが挨拶、されど挨拶。

笑顔の挨拶は、その場を明るくするのですね…。

イサクちゃんがいなくなった通りは、大きな明かりを失ったような気がします。

笑っていれば、苛められない。

笑っていれば、悲しいことが消えていく。

笑っていれば、幸せがやってくる。

笑っていれば、嫌なことがなくなる。

笑っていれば、みなも笑ってくれる。

そう、お母さんに教わったと、イサクちゃんが言っていたことを想い出します。

お母さんは、愛する息子にとても素晴らしい「笑顔」を残したのですね。

「さよならのあとで」

死はなんでもないのです

私はただ、となりの部屋にそっと移っただけ

私は今でも私のまま

あなたは今でもあなたのまま

私とあなたは

かつて私たちがそうであった関係のまま

これからもありつづけます

私のことをこれまでどおりの

親しい名前で呼んでください

あなたがいつもそうしたように

気軽な調子で話しかけて

あなたの声色を変えないで

重々しく

悲しそうな

不自然な素振りを見せないで

私たち二人が面白がって笑った

冗談話に笑って

人生を楽しんで

ほほえみを忘れないで

私のことをおもってください

私のために祈ってください

私の名前がこれまで通り

ありふれた言葉として呼ばれますように

私の名前が

なんの努力もいらずに自然に

あなたの口の端にのぼりますように

私の名前が

少しのかげもなく

話されますように

人生の意味は

これまでと変わっていません

人生はこれまでと同じ形でつづいています

それはすこしも途切れることなく

これからもつづいていきます

私が見えなくなったからといって

どうして私が忘れられてしまうことがあるのでしょう

私はしばしばあなたを待っています

どこかとても近いところで

あの角を曲がったところで

すべてはよしです

詩 ヘンリー・スコット・ホランド

※ヘンリー・スコット・ホランド(Henry Scott Holland(1847~1918)。

イギリスの神学者、詩人。英ヘレフォードシャーで生まれる。オックスフォード大学卒業。1910年、オックスフォード大学神学欽定講座教授を務める。死別の悲しみを癒すために書かれた詩は、イギリスでは故人を偲ぶ場所で広く読まれている。2012年、高橋和枝の挿絵による詩画集『さよならのあとで』が夏葉社より刊行)」

©Social YES Research Institute / CouCou

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