【90】被災地での復活する人々
被災地での復活する人々
私の顧問先の商店主が言う。
「俺はね、あれだけの大惨事を見てしまうとね、もし、自分があの被災地にいたとしたら、死んでしまった方が幸せかもしれない。あれじゃあもう立ち上がることなんて出来ないよ・・。家を失くし、最愛の妻や子供、孫や親、友達を失ってしまうのだよ。俺はもうやり直せる齢ではないしね。ひどすぎるよ・・」
また別の経営者は言う。
「阪神大震災と同じだよ・・。保険金だってまともに下りはしないし、住宅ローンを抱えている者は自己破産しか道がない。事業経営者だって同じ、借金を抱えている以上、自己破産したって再出発もできない。だから国は借金をチャラにすればいいんだよ。でもそんなことは絶対にしないだろうけど・・。それによ、他人の事より今は自分の頭のハエさえはらえない状況だ。商売にならん。商品が手に入らないから、買いたい人がいても商品がなければ売れない。もう駄目かもしれないなあ・・」
「早く現地へ行って、助けてあげたいです」
ある消防士の言葉が、私の脳裡に浮かんだ。
店主の店のテレビには、被災地で商売をしている人達の映像が映っていた。
八百屋だった親父さん。
年齢は70歳は超えているだろう。
彼は瓦礫の下で商売を始めていた。
汚い段ボールの上に大根やニンジンが積み上げられていて値段も安い。
この親父さんはお客に、「次は何が欲しい?探してきてやるよ!」と問い、「えっ、歯磨粉・・?!よっしゃ、探してくるよ!」と応じている。
すぐそばで何やら探し物をしている人物に、テレビのインタビューアーが質問する。
「何を探しているのですか?」。
この男性は、「これから商売を復活させるんじゃ!」と答えた。
「何の仕事ですか?」
「わしゃ金具屋じゃよ。この辺にいっぱい金具が落ちているだろ。これを再利用するんだよ。もう何もないけど、技術だけは残っている。ほれ、あそこの親父は靴屋だ。靴の修理に忙しいそうだ。俺もがんばらなくちゃ、な!」
自分の住まいらしき場所で佇んでいる人がいた。この人も老人だ。インタビューアーはこの人にもマイクを向けた。
「何をしているのですか?」
「家を建てようと思ってねえ・・」
「あなたが建てるのですか?」
「もう何もかも失ってしまったし、女房も子供たちも行方不明だけど、ここは皆の帰る場所だしね。金は一銭もなくて素人だが、自分で建ててみようかと、チャレンジしてみようかと、考えているんです」
テレビに映し出される、何もかも失った人々と商業者たち。この人たちには大きな共通点がある、それは「人を思う気持ち」だ。誰かのために何かをしたい、何かをしなければ・・。
そのためにはまず自分が率先して日常に戻ることだ。そう考えている。
それは丁度、敗戦後の日本に似ている。多くの国民が何もないところから支えあい、思いあい、一からやり直す姿。何度でも、何度でもやり直す。それがなぜ出来たのでしょうか?やはり、それも人を思う気持ちから始まっているのですね。
私はあえて何も話さなかったが、この顧問先の経営者たちはこのテレビ放送を見ながら、口を揃えて言った。
「一からやり直してみよう。何度でも、何度でもやり直してみよう。そして、俺たちがまず力をつけなければ世の中も良くはならない。ここは俺たちの現地で被災地だ・・」
さあ、早く日常に戻ろう!
さあ、もう一度やり直してみよう。
さあ、もう少し生き抜いてみよう。
さあ、何度でも何度でもやり続けて見よう・・。
©Social YES Research Institute / CouCou