【20】優しい嘘
『大好きなパパへ』
世界で一番大好きな私のパパ。
私のパパは世界一カッコイイ。
私のパパは世界一オシャレ。
私のパパは世界一頭がいい。
私のパパは世界一優しい。
パパは私のスーパーマンです。
パパは勉強も応援してくれています。
とにかく、私のパパは最高です。
でも・・・
パパは嘘をついています。
パパは嘘をついています。
会社に勤めていると。
パパは嘘をついています。
お金を持っていると。
パパは嘘をついています。
疲れてなんかいないと。
パパは嘘をついています。
お腹なんか空いていないと。
パパは嘘をついています。
私たちは満足な生活をしていると。
パパは嘘をついています。
自分は幸せであると。
パパは嘘をついています。
ぜんぶ私のために。
パパ、愛してる。
"My dad's story": Dream for My Child | MetLife "私のパパのお話": 〈私の子供の夢 〉メットライフ生命保険より引用
このお話は実話ではありません。
素晴らしい内容なので、ご紹介をすることにしました。
香港のメットライフ生命保険が、ネット上に企業のCMとして動画投稿したコマーシャルです。あくまでも企業サイドのイメージなのですが、あまりにも感動的なため、私は涙が出てしまいました。(わずか3分25秒のCMです。ユーチューブで見ることができます)
この話は、娘がお父さんに送った手紙です。
「…とにかく、私のパパは最高です」までの映像は、お父さんと娘がとてもしあわせそうにしている場面が続きます。少しばかり寂しげなお父さんと、その姿を静かに見つめている娘の姿が印象的です。
このCMには一切の説明がなく、娘からの手紙のテロップが流れているだけで、昔あった字幕映画のようです。
ただ、そこにはお母さんが登場しません。離婚してしまったのか、この世から去ってしまったのかは語られていません。あくまでも父と娘だけの世界が映し出されています。
勉強を教えてくれるお父さん、アイスキャンディを食べさせてくれるお父さん、レストランでお父さんと食事をする、学校の授業参観に駆けつけてくれるお父さん、いつもうれしそうな顔をしているお父さん…。
そんな大好きなお父さんに娘は手紙を渡しました。
お父さんは嬉しそうな顔をして、その手紙を開きます。
「…とにかく、私のパパは最高です」と書かれているところまでは、お父さんは笑顔でいっぱいでした。
しかし、「でも…」からは、娘は〈パパは嘘つき〉と書きます。
映像には、一生懸命に働く父親の姿が映し出されます。
仕事先でしょうか、お詫びをしています。面接に出向きますが、なかなか仕事が貰えません。毎日アルバイトをしているのでしょうか。日雇い人夫、便所掃除、ビルの窓拭き、食堂の皿洗い、職業安定所に通い、日々疲れ切っているようです。
映像をよく見ると、アイスクリームは娘の分だけ、レストランの食事も娘の分だけです。娘がお父さんに食べ物を差し出すと、お腹がいっぱいだと、首を横にふっています。
お父さんの嘘は、すべてばれていたのです…。
「パパは嘘をついています…」からのお父さんの表情はみるみるうちに、変わり始めます。
愛する娘のため、愛してくれる娘のため、お父さんは苦しくても嘘をつき続けていました。しかし、娘にはお見通しでした…。
娘はきっと苦しかったのでしょう…。
ですから、お父さんの優しい嘘に長い間つきあっていたのかもしれません。
何故って、それは、お父さんが大好きだからです。
その優しい嘘は、自分のためだと知っていたからです。
それはそうです。お父さんは、可愛い娘に心配をさせるわけにはいかないのです。
でも、娘は苦しく哀しかったのでしょう。
その想いが、お父さんにあてた一通の手紙でした。
世の中のほとんどの親は、主人公のお父さんのように嘘つきになります。
無用な不安を与えたくない…。
心配をかけたくない…。
安心させたい…。
これが親の気持ち。優しい嘘になるのです。
でも、
「…パパは嘘つき」
「全部私のために…」
と書いた娘の気持ち。それを受け取ったお父さんの気持ち。互いの思い合いが哀しくも切なく、観る者の胸をしめつけます。
「パパ、愛してる…」という言葉とともに、二人は泣きながら抱き合い、得も言われぬ希望を感じさせるラストシーンでした。
©Social YES Research Institute / CouCou